うつ、不安とお酒の関係
お酒の効果と影響
みなさんがお酒を飲む理由はどのようなものでしょうか?楽しい時間を過ごすためのこともあれば、イライラやストレスを発散させたくて飲酒することがあるかもしれません。お酒によって得られる良い効果は、普段の生活の中で実感していることと思います。一方で、不快な気持ちを忘れるための飲酒は、危険な飲み方につながりやすいと言われており、飲酒量や飲酒頻度が少しずつ増加し、やがてはお酒を手放せなくなってしまう可能性が高まります。大量飲酒には以下のような危険性があります。特にうつ病、パニック障害や社交不安などに代表される不安障害、トラウマによる心的外傷後ストレス障害(PTSD)などを抱えている人は、お酒との付き合い方に気を付ける必要があります。
お酒の危険性①
飲酒がうつ病や不安障害を引き起こしたり、抑うつ気分を悪化させたりすることがあります。アルコール依存症とうつ病や不安障害との間に高い併存率がみられることは、これまでに多くの報告で示されています1,2,3,4。アルコールには不安を和らげる効果があるため、お酒を飲むと一瞬は気持ちが晴れるかもしれませんが、酔いから醒めたときにはその反動として、以前よりもさらに強い抑うつや不安を感じてしまいます。
お酒の危険性②
アルコールは薬の効果に影響を及ぼすことがあり、飲酒と同時にうつ病や不安障害の薬を服用すると、作用が増強してしまう(薬が効きすぎてしまう)可能性が高まります。
お酒の危険性③
飲酒は短期的には寝付きが良くなる気がしますが、長期的には睡眠の質を悪化させます。抑うつや不安を抱えて寝付けなくなったり途中で目が覚めたりすると、眠りたくてお酒を口にすることがあるかもしれません。しかしながら、飲酒は睡眠に悪影響を与え、睡眠が浅くなったり早朝に目覚めやすくなったりすることから、十分な睡眠の確保が難しくなります5。
お酒の危険性④
飲酒は自殺のリスクを高めることが指摘されています2)。酔った状態では冷静な判断をすることが難しく、衝動的な行動をとりやすくなり、自殺行動に走る危険性が高まります。
このようにお酒とうつや不安とは密接な関係があり、飲酒がこれらの症状を悪化させる危険性があります。気分を良くしようとしたり、睡眠を確保しようとしたりして、良かれと思ってお酒を飲んでいたにもかかわらず、実際には逆効果となってしまいます。とりわけ、辛い気持ちを紛らわせるためだけの飲酒は、とても危険な飲み方であるといえるでしょう。
参考文献:
1.橋本恵理 ,齋藤利和:アルコール依存症と気分障害.精神神経学雑誌,112;780-786,2010.
2.松本俊彦,竹島 正:アルコールと自殺.精神神経学雑誌,111;829-836,2009.
3.松下幸生,木村 充,吉村 淳,樋口 進:DSM-5時代のアルコール依存の生物学的基盤と薬物療法.精神神経学雑誌,119;252-259,2017.
4.永田俊彦:アルコール使用障害と不安障害の併存.精神神経学雑誌,111;837-842,2009.
5.内村直尚:アルコール依存症に関連する睡眠障害.精神神経学雑誌,112;787-792,2010.