アルコール依存症の症状とサイン
アルコール依存症は一言で述べると飲酒のコントロール(制御)が困難になる病気です。一般的に長期間の多量な飲酒がもとで、次第に飲酒の制御が困難となり、身体的、精神的、社会的問題や悪影響が出ても飲み続けてしまいます。
より細かくご説明すると、次のような経過をたどり、本人も気づかぬうちに進行してしまう病気です:
① 常習的な飲酒や飲酒機会が増大するとアルコールへの耐性が生まれ、
② 以前と同じ効果を得るために飲酒量が増えたり、飲酒をしていない時の不快な症状が起こり、
③ 次第に飲酒の制御が困難になり、
④ 身体的、精神的、社会的問題・悪影響が頻発しても飲み続けてしまいます。
アルコールは身体や精神に有害な物質なので、様々な健康問題が出現します。
ご自分で気づきやすい症状の例としては、
- お酒の勢いで寝付くが、お酒が切れてくると途中で起きてしまう
- 特に朝は気分が落ち込み、だるくなる
などが典型的です。
健康診断で指摘される代表的な症状では、
- 肝障害(γGTP値の上昇~進行すると黄疸やむくみ、腹水の出現など)
- 胃腸障害(胃炎や下痢、胃潰瘍など)
- 膵炎や糖尿病
- がん(特に多いのが食道がん、胃がん、肝臓がん、大腸がん、すい臓がん)
- 睡眠障害
- うつ病
などと関連しているとされています。
体調の変化に加えて生活も変容してくることが多く、仕事から帰った後の時間や休日、家族の不在の時間になると、飲酒が生活の中心になってしまう人も多いようです。
- 毎晩のように晩酌で深酒をする
- 休日にはよく朝や昼、午後の早い時間から飲酒する
- 子供や配偶者が学校や仕事に行った後に飲酒する
などが典型的になります。
さらに依存症が重症化すると、離脱症状(酒が抜けてくるとイライラする・震えてくる・大汗(寝汗など)をかく)が出現することがあります。そして最終的には体調不良などで社会生活や家庭生活に多大な悪影響を与える(仕事や家事・育児などに大きな穴をあけてしまうなど)ことになってしまいます。問題が重症化してくると、
「1日にビール1本にしよう」とか
「焼酎1合だけにしよう」
「休肝日をつくろう」
などと飲酒のコントロールをしようとします。しかし多くの場合長続きせず、次第に飲酒量や飲酒頻度が増えていって、結局短期間で元の飲み方に戻ってしまいます。アルコール依存症を抱えながら飲酒している多く方が根底に強い飲酒欲求を抱えています。飲酒をやめて飲酒欲求を抑制しない限り、このような飲酒問題が続いてしまう・悪化してしまうことが多いようです。
アルコール依存症の症状は、自分自身も周囲の人も初期には気づきにくく、重症化して問題が大きくなる傾向があります。症状を知って、お近くの専門医療機関や専門相談窓口などと相談しながら、早期発見・早期治療を目指しましょう。
参考文献:
WHO(1992)The ICD-10 Classification of Mental and Behavioral Disorders ; clinical descriptions and diagnostic guidelines, World Health Organization, Geneva, (融道男,中根允文,小宮山実ほか監訳(1993)ICD-10精神および行動の障害-臨床記述と診断ガイドライン、新訂版-.医学書院,東京, 2005.)