女性とアルコールについて

女性の飲酒は近年一般的になってきました。しかし女性は男性より10年以上早く肝硬変になること、男性の半分の酒量でも肝障害を起こす1)ことをご存知でしょうか?この原因の一つに、体脂肪が多く筋肉が少ないことがあげられます。摂取したアルコールは主に体の水分によって薄められますが、水分は筋肉に多く含まれている為、筋肉の少ない女性はアルコールが薄まりにくいのです。他にも女性ホルモン等が影響していると言われていますが、原因は解明途中です。

 

またアルコールでダメージを受けるのは肝臓だけではありません。例えば1日に摂取する純アルコール量が10g(グラス1杯弱のワインに相当)増えると、乳がんのリスクが約7%増える2)と言われます。更年期以降の女性ではしばしば骨粗鬆症が問題になりますが、多量飲酒は骨密度を減少させ骨粗鬆症や骨折の原因となります。

 

この他にも妊娠中の母親のアルコール摂取により、生まれてくる子に顔面を中心とした奇形や体の発育障害、知能障害が生じることが以前から知られていました。その子たちは胎児性アルコール症候群(Fetal Alcohol Syndrome: FAS)と呼ばれ、典型的なFASの赤ちゃんの顔つきは【図1】のようでした。その後より広い影響が認められるようになり、現在では胎児性アルコール・スペクトラム障害(Fetal alcohol spectrum disorders; FASD)と呼ばれています。FASやFASDの赤ちゃんの障害は一生続くこともあるため妊娠中のお酒は厳禁、可能なら妊娠を意識した時からお酒は控えたいものです。

 

【図1】

 

そしてアルコールによって起こる病気と言えば依存症ですが、こちらもまた男性と女性で違いがあります。まず患者さんの年代のピークは男性で40~50歳代ですが、女性は30~40歳代と10歳近く若く3)なっています。お酒を飲み始める時期は男女でほぼ同じですから、女性は早く依存症になってしまう訳です。またアルコール依存症にはしばしば精神科の病気が合併(重複障害)しますが、こちらも女性の方が多いです。例えばうつ病や躁うつ病などの気分障害は男性が8%なのに対し、女性は16.8%でした。30歳未満の女性の患者さんの約7割には摂食障害が認められました4)

 

このようにアルコールは、肝臓だけでなく女性の心と体、そして人生にまで影響を及ぼします。女性は是非節度ある適度な飲酒量を守って、また周りの男性はそれをサポートして、もし依存症になってしまったかな?と思ったら早めに専門の医療機関を受診して欲しいと思います。

 

参考文献:

1.谷川久一:肝障害. 日本臨床,55:153-157,1997.

3.平成16年度~平成18年度厚生労働省精神・神経疾患研究委託費「薬物AL・AL・中毒性精神病治療の開発・有効性評価・標準化に関する研究」(主任研究者:和田 清)総括研究報告書,193-228,2007.

4.岩原千絵,樋口進:アルコール依存症と摂食障害. Frontiers in Alcoholism,4:31-35,2016.

2.Hamajima N, Hirose K, Tajima K, Rohan T, Calle EE, Heath CW Jr, et al.;Collaborative Group on Hormonal Factors in Breast Cancer.: Alcohol, tobacco and breast cancer collaborative reanalysis of individual data from 53 epidemiological studies, including 58,515 women with breast cancer and 95,067 women without the disease. Br J Cancer,87:1234-1245,2002.